光環境の違いを使って、ミニトマト果実を高リコペンに!
※2024年3月20日~5月25日に実施した自由研究コンテストの入賞作品です。
サイト掲載にあたり、一部文言や流れの変更・画像の修正を行っております。
光には様々な種類があり、波長の長さによって、目に見える光や見えない光に分けられます。「紫外線」「可視光線」「赤外線」など耳にしたことはないでしょうか。普段浴びている太陽光線からは、この3種類の光線が出ています。
私たちが目にすることができる可視光線は植物にどのような影響をあたえているのでしょうか。今回は、光環境の違いによるミニトマト果実のリコペン量の変化を調べてみましょう!
仮説
吸収スペクトルから、赤・青の波長は植物の光合成を促進させる効果がある。
→光合成が盛んになることで、ミニトマト内の栄養分は増え、リコペン量も増える。
→赤・青の光がリコペン量を増加させるのでは?
準備するもの
・トマト苗(今回の品種:アイコ)×8本
・プランター×4個
・肥料×1袋
・トマトの印付け用ワックスコード×1個
・土×8袋
・支柱 アーチ×5個
・支柱 ストレート×14個
・ビニール(透明)×1セット
・カラーフィルム(赤 8枚、青 5枚、緑 4枚)
・菜園クロスバンド×2個
・パッカー×3 個
・収穫後分別用チャック袋(60枚入り)×2個
・温湿度計×4個
・ビニールタイ×1個
・ブロック(万能沓石)支柱固定用×10個
・遮光ネット×1枚
・ジョーロ
・不織布×2枚
・1L ペットボトル(水量測定用)
・フィルム補強用テープ×2個
方法(ミニトマトの栽培)
今回は、簡易ビニールハウスで栽培を行います。
理由は、雨や鳥の影響を受けずにトマトを栽培するためと、カラーフィルムを貼ることができる環境にするためです。
①ビニールハウスを組み立て、カラーフィルムを貼る。
今回は、フィルム無し区(光量の関係で不織布を貼ってある)、青フィルム、緑フィルム、赤フィルムの4区画を準備。
フィルムの長さ:南側は全体を覆う長さまで、北側は頂部から1mまで貼った。
※各区画のフィルムの影響を抑えるため、各区の間に不織布を入れた。
②各ビニールハウスで、同一の条件でミニトマトを育てる。
③実が収穫できたらリコペン量を測定する。
今回の結果(ミニトマトの栽培)
ミニトマトの栽培は、全ての区で、以下の条件を同一にしました。
・光量
・プランターの土の量
・あたえる肥料の量
・各区画の気温、温度
※光量:光量計、水:ペットボトル、土・肥料:スコップ、気温・温度:各区画1つずつ温湿度計を設置して測定
※温度のみ地元の市の平均と比較
ハウス内の方が2~3℃温度が低く、フィルムの影響や各区画の間に貼った不織布の影響によるものと考えられます。
きれいなミニトマトが収穫できました!
次はリコペン量の測定です。
準備するもの(リコペン量の測定)
・メスフラスコ(茶)×2個
・シリンジフィルター×1セット
・ホモジナイザー×1個
・ホモジナイザー用ステンレス軸×1個
・ジエチルエーテル(500mL)×3個
・不織布×2枚
・予備実験用トマト ×1パック
・褐色びん×2個
・ガラス注射筒×2個
・ラベルシール×1セット
方法(リコペン量の測定)
農研機構『トマトのリコペンの最適抽出溶媒の選定とこれを用いた簡迅速測定量法』を使用。
①ミキサーで破砕した果実を褐色蓋付き遠沈管に3.0g量り取る。
② ジエチルエーテル:メタノール=7:3(v/v)の抽出溶媒を35mL 加え、ホモジナイザーで粉砕する。
③ 静置後、100mL の褐色メスフラスコに移す。
④ 加える抽出溶媒を15mL にし抽出液が無色になるまで②~④を繰り返す。
⑤ 100mL に調整後、孔径0.2μm のディスポーサブルフィルターでろ過する。
⑥ 波長を505nm に設定した分光光度計で吸光度を測定し、数値を以下の式に代入し、リコペン量を算出する。
トマトのリコペン含有量(mg/100g)=20×(505nm の吸光度)÷(0.315×試料重(g))
※本分析では⑤の後に2 倍希釈を行うが、今回は式から算出した値を2分の1倍した。
今回の結果(リコペン量の測定)
リコペン量は、赤>青>透明(対照区)>緑の順に多かったです。
自然光栽培を行った透明(対照区)を基準とすると、赤・青では増加し、緑では大幅に減少しました。
光環境の違いによる影響がリコペン量以外にも及ぶのか調べるため、糖度とpHも測定することにしました。
※本目的ではないため、フィルム設置区のみ測定。
糖度:赤>青>緑、pH:赤>青>緑
糖度・pHともに赤の数値が高く、糖度・pHとリコペン量の増加の順番が同じであることが分かりました。
●まとめ
・リコペンは栽培時の光環境によって生成量が変化し、特に長波長の赤・短波長の青フィルムでリコペン量が多くなる。
・光環境による影響を受けるのはリコペンのみではなく、糖度・pHも影響を受ける。
→赤・青区画では、高リコペン+甘味・酸味のある果実を栽培することが可能。
今回設定した光環境について詳しく調べるため、ワイヤレス光センサと手作り分光器を用いて、各区のビニールハウス内側から「赤・青・緑」の光色比率を測定してみました。
(左:分光器で光を解析した時の写真、右:「赤・青・緑」の比率を数値化した円グラフ)
人間の目では単色に見える光には、赤・青・緑が異なった比率で含まれていました。
自然光は青の比率が多く、全ての区画の青の比率はほとんど同じ数値を示しました。
●考察
今回の栽培では、光環境以外の全ての条件を統一していましたので、変化させていた光環境の違いがリコペン量に影響をあたえていることが考えられます。
また、各区の光の緑の比率の違いがリコペン量に影響をあたえている可能性が高いと考えました。
→緑の比率を減らし、赤・青の比率を増やすことが高リコペン化に最も効果的なのでは!?
※正確な考察をするための追実験の必要あり
●これまでの結果からの疑問点
赤と青、どちらの光がよりミニトマトの付加価値を高めることができるの?
ということで、赤・青区画のミニトマトを対象に、「大きさ」「重量」「収穫個数」「3・4段目の実のリコペン量」を比較してみました。
測定した項目全てにおいて、赤区画で栽培したトマトの方が青区画よりも優れた値を示しました。
対象:赤区画 ※下から段を数えた(4段目より3段目の方が下)
赤区画内で比較すると、下から3段目の房から収穫したミニトマトの方が、リコペン量が多かったです。しかしながら、4段目のミニトマトも最初に数値化した自然光栽培のリコペン量を上回る結果となりました。
●考察2
赤のフィルムを貼った区画で栽培したミニトマトは、高リコペン+果実の付加価値を上げることができるのではないか、また、下段の方が上段よりも僅かに遮光がなされていた可能性が高く、遮光もリコペン量に変化をもたらす要素の一つなのではないか。
●結論
・植物は光環境の変化に影響を受ける
・ミニトマトの場合、リコペン量に加え、果実の糖度・pHも変化
(特に、赤・青フィルムでの栽培が有効)
・赤フィルムの方が高リコペンに加えて果実が大きく、重さ、甘味、酸味を兼ね備えた付加価値の高いトマト栽培が可能
・高リコペンミニトマトを栽培するには、緑の比率を減らし、赤・青の比率を増やす
(ある程度の遮光が必要?)
最後に
健康志向が高まっている現代において、高リコペンのミニトマトは需要があるのではないでしょうか。カラーフィルムを設置することで、普段無色であるビニールハウスにも彩りが生まれ、見た目が華やかになりますし、手軽に付加価値を高めることができます。デメリットは劣化しやすい点でしょうか…。
今回の研究をざっくりまとめると、『カラーフィルムで覆って植物を栽培し、自分の気になった成分を抽出してみた』という感じです。植物栽培を視覚も含めて楽しめるようになる実験なので、ぜひ多くの人に知ってもらい、身体にプラスとなる野菜も食べていただきたいです!
おまけ
●豆知識
トマトのリコペンってリコピンじゃないの?と思われた方もいるかもしれません。実はリコピン(Lycopin)というのはドイツ語だそうです。リコペン(Lycopene)は英語表記で、今回はこちらを使用してみました。
●追加実験
今回の実験方法を現在の農業の園芸施設に活かす場合を考えると、大型ビニールハウスでのフィルム設置は現実的ではありません。
そこで、LEDライトでのミニトマト栽培を実施してみました!
栽培時期が2月1日だったことから、室内で栽培を行いました。
<準備するもの>
・室内栽培用ミニトマトセット×3セット
・LEDスタンド×2個
・カラーフィルム(実験の余り)
どちらか一方のLEDライトを赤のカラーフィルムで覆い、ミニトマトを栽培します。
苗が完全に生長する前に光を当ててしまったからでしょうか。実ができるギリギリまで自然光で育て、その後にライトを当てればよかった…?
●今後の展望
・LEDライトでもカラーフィルムの結果が反映されるのか
▷1回目は失敗、再検証
・遮光も高リコペン化の大きな要素の1つなのでは
▷カラーフィルム+人為的な遮光を施して栽培し、リコペン量を比較
・ミニトマトだけではなく、他の植物もそれぞれ効果的な光環境があるのでは
▷他の植物でも同様の実験を行い、農業界に新たなアイデアを提言したい