メダカで小松菜は育つのか?
~アクアポニックスでリボベジに挑戦~
※2025年3月21日~6月15日に実施した自由研究コンテストの優秀賞作品です。
サイト掲載にあたり、一部文言や流れの変更・画像の修正を行っております。
我が家では子どもが自由研究のために何年も蓮を育てている。蓮を育てているとすぐに藻が増える。藻が増えてしまうと掃除が大変なので、この藻をどうしたら増やさずに済むのかが最近の子どもの自由研究テーマとなっている。
親である私も私なりの答えを探したく、アクアポニックスに着目して自由研究を行うことにした。


着目したアクアポニックスとは、「アクアカルチャー(魚の養殖)」と「ハイドロポニックス(植物の養液培養)」からなる造語で、魚の養殖と水耕栽培をかけ合わせた新たな循環型の農法である。
魚の餌や排泄物を、フィルター(物理フィルターと生物フィルタ)を通して植物が吸収しやすい形に分解し、植物が水中の有機物を吸収した後のきれいな水を魚の水槽に戻すという仕組みである。
植物への栄養は魚の水槽の水に含まれる養分のみで他の肥料は必要ない。つまり、魚の水槽の養分だけで植物が育つというのである!
藻は、富栄養化(水中の養分が過剰化)した水に日光が当たることで増えてしまう。アクアポニックスは富栄養化した水中の養分を植物が吸収してくれるので、藻が増えにくくなるのではないかと考えた。
ちょうど我が家の蓮バケツには、以前藻の対策として飼い始めたメダカがいる(多少の効果はあるものの、藻の増殖を抑えることは出来なかった)ため、水耕栽培の部分を追加すればアクアポニックスを始めることができる。
調べたいこと
Ⅰ本当に蓮バケツの養分だけで植物が育つのか
Ⅱアクアポニックスで藻の増殖を抑えることは出来るのか
事前学習
まず、アクアポニックスについて詳しく知るところから始めた。
【分かったこと】
アクアポニックスには、3種類のシステム➀メディアベッド、➁DWC、➂NFT、があり、どの方式でアクアポニックスを運用するのか最初に決める必要がある
➀メディアベッド
ハイドロボール等の培地を使い、植物の根を支えながら水をろ過する仕組み
➁DWC(Deep Water Culture)
水深10~30cmの深い水槽に植物を浮かべる方式
➂NFT(Nutrient Film Technique)
少量の水を薄膜状態で循環させて植物の根に栄養を供給する方式
それぞれにメリット・デメリットがあるが、今回は➀メディアベッドでの運用を行うことにした。
準備するもの
●メディアベッドの材料
・ハイドロボール(4mm以上を5L)
・サイフォンの原理で排水する水槽
・USB電源の汲み上げ循環ポンプ
・ゼオライト(後から)
・ワイヤーネット(後から)
・結束バンド(後から)
・遮光ネット(後から)
※ハイドロボールとゼオライトは使う前に水でよく洗う。ネットに入れて洗うと良い。
●育てる植物
・小松菜の根の部分…4つ
→初心者でも育てやすく、アクアポニックスで育成可能。より手軽にできるように種からではなく、根を使用することにした(リボーンベジタブル=再生野菜)。
リボベジもやったことがないため、アクアポニックスで育ててみることにした。


今回の結果
Ⅰ本当に蓮バケツの養分(メダカの水槽の養分)だけで植物が育った!



小松菜は肥料をあたえなくても育った。土で育てた場合は、草丈20~25cmほどで収穫となるが、メディアベッドいっぱいに育っていたため、育て始めて1カ月後の草丈18cmで収穫した。

Ⅱアクアポニックスで藻の増殖は抑えられた
春になって日が長くなり、気温が上がると、蓮のバケツの中には様々な形状の藻が発生する。発生した藻は日に日に面積を増やし、水の色も緑色や茶色(藻の色)になり、時には藻による悪臭も発生する。
しかしながら、アクアポニックス運用中はそのようなものの増殖は感じられなかった。むしろ水の色は運用前よりも透明度が上がったように思う(家族も同じように感じたと話している)。

※茶色く見えていた水中の貝殻がアクアポニックス運用後は白く見える。
なお、繊維状の藻はアクアポニックス運用前から発生していたもの。
上記の反面、水槽の水を汲み上げたメディアベッドの方で藻の発生と増殖が確認された。
分かったこと
➀はじめは植物を入れずに試運転した方が良いが、必ずというわけではない
メディアベッド方式は、メディアベッドの中に微生物が住みつくことで、その微生物が魚の水槽の水の中にあるアンモニアを亜硝酸に分解し、亜硝酸を硝酸に分解する(生物フィルター)。
微生物が吸収しやすい形に分解してくれた養分を植物が吸収し、きれいになった水が水槽に戻される。しかし、初めて運用するときのメディアベッドに微生物がまだいないため、生物フィルターを通さないままの水が、魚と植物の間を循環していることになる。
そのため、初めて運用する際は、野菜を入れる前に水だけを循環させて、微生物が住み着くまで(約3週間)試運転をするのが一般的だ。
ただ、植物は生物フィルターを通していない水からもいくらか養分を吸収することができるため、今回の研究ではメディアベッドが完成し次第、試運転なしで小松菜を育て始めた。
その結果、小松菜の生長には影響は見られなかったが、メダカがメディアベッドから戻される水の音を警戒して餌を食べに水面に現れない期間が続いた。
アクアポニックスの性質上、メダカが餌を食べないと小松菜が吸収する分の養分が水中に生まれない。今回は家庭菜園なので問題はなかったが、農業として運用する場合は、野菜の収穫量を想定した上でそれに適した魚と餌の量を計算してから運用するため、安定してシステムを運用するために、試運転の期間が必要だということが分かった。
なお、今回のように家庭菜園としての運用で早く試してみたいという場合は、試運転なしでも育つことがわかった。その場合は、育てる植物が、養分が少なくても問題ないか、初心者でも育てやすいかを調べてから選ぶと良い。
➁藻の対策として、メディアベッドの表面は水が無い方が良い
驚くべきことに、アクアポニックスを運用してから1週間も経たないうちにメディアベッドに藻が発生し始めた。「グリーンウォーター」という富栄養化で発生した植物プランクトンにより、水が緑色になる現象も確認された。
藻の発生を抑えるためには、魚の水槽から汲み上げた水に日光が当たるという状況を可能な限り阻止するのが良い。
今回メディアベッドに使っている容器が元は水槽で、メディアベッド内の水位が高めになってしまうため、ハイドロボールを1L追加して水面を隠し、さらに藻に強いと言われているゼオライトを化粧石として表面を覆った。
汲み上げた水を排水している部分はどうしても覆えなかったため、その部分には藻が発生した。
また、透明な汲み上げチューブには藻が発生してしまったので、黒いチューブを選ぶと日光が中を通る水に当たらず、藻を防ぐことができる。

➂魚と植物はともに生きることができる最適温度を揃えて選ぶ
春植えの小松菜はまだ種まきが間に合うという情報からリボベジで小松菜を育て始めたが、2025年の5月下旬は夏のように暑い日が続き、順調に育っていた小松菜が萎れてきてしまった。
小松菜は収穫までの期間が短い野菜なので、日陰と小松菜の近くの空気を冷やす装置を作ることでなんとかしのいだ。

アクアポニックスでは、魚と植物の相性がある。例えば15℃以下の冷たい水に住む魚と25~30℃の暖かい気候を好む植物を一緒に育てることはとても難しい。アクアポニックスを運用する時は、植物と魚(と生物フィルターの微生物)が好む温度をあらかじめ調べ、家庭菜園の場合は、家庭でその温度管理が可能かを確認する必要がある。
初心者は20~25℃を最適温度とする魚と植物で運用すると管理がしやすいようなので、今回もその点を意識したつもりだった。しかしながら、その気温で種まきができるかだけでなく、その後生長するときも最適温度なのか確認しておく必要があった。発芽期間よりもその後生長していく期間の方がはるかに長く、ここでいう「最適温度」とは後者の温度だということに後から気づいた。
小松菜の場合は、もっと早い時期に育て始めるのが良かったと分かった。
まとめ
5月上旬からアクアポニックスで小松菜を栽培することで、小松菜が蓮バケツの富栄養化を解消して藻の増殖を抑える働きをしていた。しかし、藻の発生はそれより前から始まっていたことと小松菜を生育するには5月では暑すぎる日があった。このことから、小松菜を使ったアクアポニックスは3~4月から運用を行うことで、藻の発生抑制や小松菜の育成にさらなる成果が上がると考えられる。
最後に
蓮バケツで藻の発生の原因となっていた「富栄養化」という現象は実は海でも起こっている。富栄養化が起こるとプランクトンが大量発生し、海中の酸素が不足して魚や貝が大量に死んでしまう赤潮やアオコが発生する。
調べたところ、今の技術では海水で育成することができる植物が少ないことから、海水でのアクアポニックスは難しいとされているが、アクアポニックスにみる植物の富栄養化を解消する力は、こうした海の生き物の大量死を防ぐ力を持っているのではないかと思った。
今回収穫した小松菜は、炒め物にして美味しくいただきました。


